|
日本最大の映画スター、ゴジラ。 その貫禄を見せつけるかのように、このところ、米国の大手メデ ィアのゴジラ報道が過熱している。 発端は、東長崎機関でも取り上げた、川崎市岡本太郎美術館にお ける『ゴジラの時代』展。 6月10日、AP通信が、「日本で人気の核エネルギー怪獣が、つ いにキッチュな俗物から高尚な芸術に格上げされた」と配信した。 「この展覧会は、ゴジラを過去半世紀の日本社会を映す鏡として 捉え、その歴史をたどる。核爆弾や高度経済成長、宇宙旅行、冷戦、 公害、バイオテクノロジーの危険性――これらは、ゴジラが触れた テーマのごく一部にすぎない」。 同美術館学芸員の大杉浩司氏も登場、ゴジラを江戸時代に過小評 価された浮世絵にたとえながら、「100年後には、ゴジラもアート として高い評価を受けるかもしれない。でも、私はそんなに待てな かった」と、熱くコメント。 |
お次は、米テレビ報道界の雄、CNN。7月23日に、「ゴジラ 生誕50周年を2年後に控えた今年も、日本では、この世界的に有名 な怪獣映画が作り続けられている」と報じた。「ゴジラは過去に何 回も死んでいるが、ゴジラとともに育った日本のファンは、そんな ことは気にならないらしい。また、彼らは、いまだに怪獣スーツの 中に人が入っていることも、気にしない。」 いわゆる”着ぐるみ方式”を茶化したあとで、新作『ゴジラ X メカゴジラ』を、生身の怪獣とハイテク・ロボットの対決という、 21世紀のテーマを抱えた作品として紹介。ゴジラの時代性にもチョ ロリと触れているが、担当記者のCNN東京支局長は、どうして も着ぐるみ方式が気になるらしく、「とはいえ、ゴジラはいつの世 も、ゴム製のスーツの中に俳優が入っているだけ」と反復。 |
その、CNNが揶揄した、着ぐるみ方式とミニチュアワークを大 真面目に掘り下げたのが、日本の大手メディアの注目度も高い、ニ ューヨーク・タイムズ。9月2日付の、なぜかビジネス・ページに、 「低コスト・ローテクのゴジラ、栄える」と題する記事が掲載され た。日本のゴジラの製作費は『スターウォーズ・エピソード2』の 約8%にすぎないなどと、一応ビジネス記事の体裁を保っているも のの、中身は、日本の伝統的特撮に焦点を絞った超オタク記事。一 般紙のニューヨーク・タイムズがこれほど特撮に踏み込むのは、 きわめて異例だ。 件の記事は、日本の特撮の父、円谷英二にも言及し、CG至上主 義のハリウッド大作のような「ビッグでスピード感が強調された、 派手な映画がベターだとはかぎらない」と円谷式特撮を賞賛。新作 ゴジラのプロデューサー、監督、特技監督、怪獣スーツの造型プロ デューサー、着ぐるみ俳優の各氏に取材し、製作の現場に迫る。 ゴジラのスーツは身長190センチ、重さ50キロ、近年は従来より 20キロ軽くなったとか、尻尾や頭部の操作も加えると演技に最低3 人必要だとか、ミニチュアの街には、数センチ大のゴミ袋まで作り 込まれているとか、オタク特撮専門誌も真っ青の、こだわりのディ テールを詳述。さらに、1965年に東宝特撮映画に初登場し、今年の 新作でも活躍する未来兵器「メーサー殺獣光線車(maser tank)」 の名まで記されている。 いつもニューヨーク・タイムズの報道を取り沙汰している日本のメデ ィアよ、これこそ諸君が騒ぎ立てるべき重大記事である! 今後も米メディアの動きに、監視の目を光らせねばなるまい。 (報告:常岡チエコ) |
|