活動ゴジラ・怪獣関連特撮ファン・常岡千恵子の怪獣史観+α

特撮ファン・常岡千恵子の怪獣史観

『スター・ウォーズ』サーガの変節と米帝国主義の肥大 3-3



 実はアナキンは、連日悪夢にうなされていた。母親の身に危険が迫っている
夢で、アナキンはパドメとともに、母親を救うために故郷の星タトウィーンに
戻る。
 
 奴隷としてタトウィーンで生活していた母親は、身請けされて農夫と結婚し
たが、1カ月ほど前に、凶暴な遊牧民の種族・タスケン・レイダーにさらわれ
ていた。
 アナキンは、タスケン・レイダーの集落を探し出し、小屋に忍び込む。する
と、中には、傷だらけで縛られた母親がいた。母親は、息も絶え絶えに愛する
息子との再会を喜ぶと、アナキンの腕の中で絶命した。
 怒りに燃えたアナキンは、タスケン・レイダーの一族を虐殺する。

 この場面は、アナキンの攻撃性と、ダース・ヴェイダーへ変身していく原因
のひとつを描いたつもりなのだろうが、いかにも取ってつけたようで、不自然
きわまりない。
 タスケン・レイダーは、なぜ母親を1カ月も生かしておいたのか? 奴隷と
して転売するなら、もっと元気なうちのほうが高く売れる。それとも虐待の対
象として、生かしておいたのだろうか?

 どうも、アナキンの心がねじれる課程を説明するために、便宜的に作られた
シーンとしか、思えないのである。母親を救いそこね、その死を目のあたりす
るという不幸な体験が、彼の心をすさませ、ダース・ヴェイダーに一歩近づか
せた、という具合に。

 不幸な生い立ちや境遇が人間を悪に向かわせるというのは、いかにも短絡的
な発想で、感心しない。
 現に、アナキンの息子のルークは、両親がいなくても、健全に育っていった
ではないか。不幸な子供が、悪い人間に育つわけではない。しかしこのシーン
は、貧しい孤児が凶悪な人間になる、と決めつけているようでもある。
 とくに、タスケン・レイダーの不可解な行動を考え合わせると、非常にわざ
とらしく、不快感さえ催す。
 激しい動揺の中で、アナキンは、タスケン・レイダーを虐殺したことをパド
メに告白する。だが、ここでも二人の演技は絶望的なほど稚拙で、大いに盛り
下がってしまう。

 ともかく二人は、オビ=ワンが惑星ジオノーシスで危機に陥っていることを
知り、救出に向かう。
 ジオノーシスでは、分離主義者の指導者・ドゥークー伯爵が、強欲な通商連
合らと策略を練っていた。
 オビ=ワンはすでに彼らに捕らえられ、アナキンとパドメも捕らわれの身と
なり、ローマ帝国の野外円形闘技場のようなスタジアムで、全員公開処刑され
ることになる。
 二人を刑場に運ぶカートの上で、パドメはアナキンに愛を告白する。
 
 前作『エピソード1/ファントム・メナス』でも、大観衆の前で危険きわまり
ないレースが開催される場面があり、ひょっとすると次の作品でも、このよう
な退廃的な大衆娯楽が登場するのかもしれない。
 過去のハリウッド大作へのオマージュでもあるが、戦争の実況生中継を娯楽
のように放送する1年後の米国を、予見したようなシーンだ。

つづく