1942年12月8日。太平洋戦争開戦1周年を記念して、映画『ハワイ・
マレー沖海戦』が公開された。海軍航空隊予科練に入営した少年が、一人前の
航空兵に成長し真珠湾攻撃を遂行するまでを、たんたんとドキュメンタリー・
タッチで描いた戦意高揚映画で、往年の大女優、原節子も出演している大作で
ある。「自分のことごとくは、賢くも大元帥陛下のために捧げ奉ったものであ
る」なんてセリフが飛び交う、ビンビンの国策映画だが、最後のクライマック
スで真珠湾攻撃のシーンが数分程度登場する。真珠湾へ向けて山脈沿いに飛行
する攻撃隊は出色の出来で、真珠湾爆撃シーンも、なかなかの迫力。驚くほど
特撮カットが少ないにもかかわらず、公開当時においては、文句なしの日本映
画史上最大の特撮スペクタクルであった。
そして何を隠そう、この映画の特殊技術を担当したのが、『ゴジラ』や『ウ
ルトラマン』の生みの親、円谷英二だったのだ! 1919年に撮影助手とし
て映画界入りした円谷は、さまざまな映画の撮影を担当したのち、特殊技術の
分野を開拓する。そして、国策映画も含むありとあらゆるジャンルの作品で、
才能を発揮。とくに『ハワイ・マレー沖海戦』は、前代未聞のスケールで製作
された特撮映画の金字塔であり、日本のミニチュア技術を飛躍的に進歩させた
作品だった。戦後、円谷は戦争協力者として追放処分を受けた。そう、現在す
っかりお子様向けの娯楽となった怪獣映画のルーツは、何と、戦意高揚映画だ
ったのである! そして、『ゴジラ』の迫真の破壊シーンは、『ハワイ・マレ
ー沖海戦』なくしては、生まれ得なかったのだ。
|