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英語で読む「イラク情勢」



イラクでの戦闘が始まると同時に舌戦も活発になってきた。影響力ある世界のメディ
ア向けに英語でそれぞれの立場を説明するわけだ。また日本を始めとして米、英国
は、要人の演説だけではなく、実際の記者会見の模様を各国の外務省サイトに全文
アップしてくれているので、メディアという仲介者を通じなくても一般市民が今世界
の指導者の足取りを追うことができる。その中で、各国の英語の使い方にその国の諸
事情を垣間見ることができる。
まずは日本。日本は今のイラクの状況を「イラク情勢」(situation in Iraq)と言
う。他のほとんどの国ではconflict(紛争)という言葉を用いている。カナダなんか
は危機(crisis)とも言っているが、日本はあくまでも冷静だ。

日本は、米英の行為をmilitary actions(軍事行動)と称している。military 
actionsとは広義で軍隊を使ったあらゆる活動で、もちろん、戦争を主眼を置いたも
のであるが、それ以外にも被災地の人命救助活動の際に軍隊を導入することも含む。
例えば、他にmilitaryという単語を使った言葉にmilitary operations(軍事作戦)
とかmilitary campaign (軍事作戦行動)というのがある。こちらはmilitary 
actionsより一歩進んで具体的である。米、英はmilitary actionsという言葉も使う
が、作戦を遂行している当事者だけにmilitary operations, military campaignsも
頻繁に演説に登場する。

当然、日本はattack(攻撃)という言葉も積極的に採用していない。ただし、これは
禁句ではなく、テロリストによる攻撃は日本の定義するところではterrorist attack
である。もちろん日本は戦争という意味のwarという言葉も極力避けている。

warという言葉を避けたがっているのは日本だけではなく、イギリスもだ。イギリス
はwarではなく、conflict(紛争)と言う言葉を使っている。英首相の記者会見では戦
争内閣(war cabinet)という現内閣の位置付けを否定する場面もあった。warという言
葉が使われたのは、ブレア首相のEUでの演説で、現在のイラク戦争を「自由への戦
争」(war of liberation)と呼んだときであった。
ノルウエーの首相はwarという言葉を使っている。ノルウエーの立場では今イラクで
起こっていることはまさにwarで、「戦争がイラクで勃発した」(war has broken 
out in Iraq)と首相が述べている。と同時に首相は、イラク攻撃の日を「本日は悲
しみと嘆きの日である(this is a day of sadness and grief)と表明した。

アメリカ、そしてオランダの舌戦ではwarからattackから何でもありである。翻訳、
通訳者にとっては非常に楽だ。サダムはterroristであり、danger to peace and 
justice(平和と正義に対しての脅威)である。ブッシュ大統領は特に大量破壊兵器
(massive destructive weapons)の大量(massive)という言葉が好きなようで、3月23日
のミサでの会見では3度も使った。

サダムを散々こき下ろす一方、これからはいかに我々はイラク国民を深く愛し、支援
を惜しまないかという態度も、外交舌戦の戦略的にも重要になってくるであろう。


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